2025年11月21日、札幌市内に暮らす女性が一冊の絵本を出版した。タイトルは『ガンがいてもだいじょうぶ』。
作者のまぼちんさんは、子育て、家事、仕事と毎日慌ただしく過ごしていた“ふつうの主婦”。しかし、2年前、会社の健康診断をきっかけにガンが発覚した。診断は大腸がん、ステージ4。医師からは「このまま何もしなければ余命7ヶ月」と告げられた。
この絵本には、ガンと告知された作者が、看護師や周囲の人々との交流を通して、ガンに対する捉え方、ゆっくりと変化していく心境を、ありのままに表現している。また、愛嬌のあるキャラクターとともに、子どもにも「ガンとはどんなものなのか」を、わかりやすく伝えている。
絵本を実際に読んでくれた方々からは、次のような感想が寄せられている。
「こういう絵本は、今までなかった」
「命の授業で、是非教材として使わせていただきたい」
「家族にがんになった人がいるので、この絵本を渡したいと思う」
「読み終えたら、なんだか優しい気持ちになった。ガンがどういうものか、わかった気がする」
「病院に必ず置いてほしい。癌とわかったときに配られても良い本だと思う」
まぼちんさんがなぜこの絵本を出版したのか。
絵本が生まれたきっかけや、完成までの葛藤、そしてこの本に込めた思いを、直接会って伺った。
ガン発覚
苦しさや不安で目の前が真っ暗に・・・
会社の健康診断をきっかけにガンが発覚したまぼちんさん。
「まだ小さい子どもたちのこと。それが一番最初に頭に浮かびました」
当時のことを、まぼちんさんはゆっくりと語ってくれた。
「子どもたちにどう伝えたらいい?」
「あと、どれくらい生きられるの?」
経験したことのない苦しさや不安が、一気に押し寄せてきたという。
「痛い、苦しい、嫌だ」
「家族の悲しむ姿を見るのはつらい」
「我が子に苦しむ姿を見せたくない」
「お医者さんから伝えられる身体のことは聞きたくない」
「延命のための治療じゃないか」
たくさんのネガティブな感情が湧き上がる日々。そんなまぼちんさんの心境に、転機が訪れる。
「人生のどん底にいたとき、一人の看護師さんの言葉に、雷に打たれたような衝撃を受けたんです」
生き方を変えた看護師さんの言葉
看護師さんは、こう語りかけた。
「自分の身体のことだよ。自分が信じてあげられなくてどうするの?絶対に自分は大丈夫だって信じてあげなさい。気持ちって、意外と大事だよ」
続けて、
「治療の選択肢はまだあるよ、これはすごいことなの」
「絶対に大丈夫だと思いなさい」
「考える事は山ほどあるよ、旅行や温泉を楽しんでいる人たちもいるのだから」
「抗がん剤は確かにきつい。何もできない日もある。でも、その中でも一つだけ何かできたら、自分を褒めてあげなさい」
「自分のことなのだから、強い気持ちで現実を真正面から受け止めなさい」
強い目力で、そう訴えかけてくれたという。
この言葉をきっかけに、まぼちんさんの考え方は180度変わった。気持ちが前向きになり、ガンに関する本を読んだり、医療従事者に気になることを積極的に質問するようになった。
他の患者との交流も始まり、それぞれの病気や症状、人生や背景を知る中で、
「今までは”ガン=死”だと思い込んでいたけれど、今の医療にはたくさんの選択肢があることがわかったんです。ガン=終わりじゃない。もっと早く知っていたらよかった。希望を持てるようになりました。そのことを子どもたちに伝えたい、と思うようになりました」と、当時を振り返る。
絵本が生まれたきっかけ
ガン発覚当時、まぼちんさんは病気のことを子どもたちに一切に伝えていなかった。入院についても、「ちょっとお腹におできができて、しばらく入院するけど心配しないでね」と伝えていたという。子どもたちを不安にさせたくない、母としての精一杯の愛が感じられる。
「ガンのことを、子どもたちにどうやって伝えようか」
悩んでいた入院中、1冊のノートとクレヨンを買い、スケッチのようにイラストを描き始めた。
「ガンを正しく怖れることが大事。子どもたちにどう伝えよう。イラストなら伝えられるかもしれないと思って、毎日病院で絵を描いていました」
それを見た医療従事者達から、絵本化を強く勧められたという。
そこから話は急ピッチで進み、出版に向けて動き出した。出版費用を集めるためにクラウドファンディングにも挑戦し、目標金額を達成。支援総額・支援者数ともに、予想を大きく上回る結果となった。
クラウドファンディングHP 大腸癌ステージ4のママが絵本を出版したい!byまぼちん - CAMPFIRE (キャンプファイヤー)
我が子に伝えたい「ガンがいてもだいじょうぶ」
まぼちんさんが絵本を描く最大の原動力は、大切な我が子に「ガンになったけれど、ママはだいじょうぶだよ」と伝えること。
そして、
・サポートしてくれる人はたくさんいること
・毎日の食べ物が身体をつくり、それが未来につながっていること
・心と身体の声を聴き、丁寧に生きることの大切さ
それらを子どもたちに伝えたかったと話す。
絵本が完成し、販売が決まってから、初めて子どもたちにガンであることを打ち明けた。子どもたちに絵本を読んでもらったことで、「病気のことを話す機会が増えた」という。
心配なことを率直に聞いてきたり、暗くなることなく、時には冗談を交えながら話しているそうだ。
「この絵本を描いて、本当によかった。心からそう思えます」
そう語るまぼちんさんの表情は、穏やかだった。
病気になる前のまぼちんさんは、「死ぬこと以外はかすり傷」という精神で生きてきた。
しかし、実際に病気になり、死が身近に感じられたとき、その気持ちは崩れ、心は弱く、塞ぎ込むようになった。それでも、多くの人との出会いの中で、生きる力をもらったという。
「すべての出会いに感謝しています」
絵本を読んでくれた人、これから読んでくれる人へ
最後にまぼちんさんから絵本を読んでくれた人、これから読んでくれる人にメッセージをいただいた。
主人公は私自身「まぼちん」。そして、突然体の中に現れた“ガン”を、憎むべき存在ではなく、ちょっと生意気で甘いものやストレスが大好きな、どこか憎めないキャラクターとして描きました。ガンの言葉に耳を傾けながら、まぼちんが医療チームと共に病気と向き合い、心を整え、穏やかに生きるヒントを見つけていく物語です。
この絵本には、私が病気に向き合う中で見つけた“希望”が込められています。
現代社会を生きる子供から大人まで、癌を知る・正しく恐れる事ができる絵本。同じような悩みを抱える人や家族にそっと寄り添い、お守りがわりの一冊になることを願っています。
絵本「ガンがいてもだいじょうぶ」
作・絵 まぼちん
出版:みらいパブリッシング
発売:2025/11/21
価格 1540円(税込)
A5判 32ページ 上製 オールカラー
全国の書店、Amazon、楽天、ヨドバシカメラなどのネット書店などで販売中。
札幌では、コーチャンフォーミュンヘン大橋店、紀伊国屋札幌本店、マルヤマクラス大垣書店などで販売している。
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どんな境遇にある人も、この本から学ぶことは多い。ガンを経験した方もしていない方も、子どもの教育にも優れた絵本だと思う。多くの方がこの絵本を手に取り、ガンの捉え方やガンに対する知識が深まり、広がっていくことを願う。取材に協力してくれたまぼちんさんにも心から感謝を申し上げたい。
取材 月川みづき
