シバザクラを守って半世紀

 豊岡邦子さん(北丿沢青葉台町内会)

 毎年、北丿沢の住宅街の一角にシバザクラのじゅうたんが現れる。

 ピンク色に染まった一面の区画、小さなおばあちゃんがせっせと雑草を抜いている。ここは今年91歳になる豊岡邦子さんの家の庭で、自身が50年以上前から手入れしている。

 

 この地に嫁に来て以来、約70年北丿沢に住む。元々は農業を営み、ジャガイモや小麦、農耕馬用の燕麦を作っていた。畑の規模を縮小して平らにしたところに、自然とシバザクラが根付き出した。最初はポツポツとあったものが、いつしか一面を覆うほどになった。

 「今年はシカに食べられちゃってね〜。いつもはもっときれいなんだけど」

 とは言うものの、目を楽しませてくれるのには十分だ。

 家の庭には、大きな石がきれいに積まれた花壇になっている。

 「これ、みんな畑から出た石なんですよ」と邦子さん。

 北の沢は、とにかく大きな石がごろごろしている地域だったそうだ。農家が多かったころは、畑のいたるところに、掘り出した石が山のように積まれていたという。

 

 「石の隙間にマムシが入り込んでね。嫌だったねー、あのヘビは」と当時を振り返る。

 なぜこんなに石だらけの土地だったのかはよくわからないが、開墾には相当の苦労があっただろうことは想像に難くない。

 豊岡さんはヒマを見つけてはシバザクラの間に生えた雑草を抜く。

 「腰が曲がってるからちょうどいいんですよ」と笑いながら、杖をつきながら段差を登っていく。

 「根こそぎ取らないといけないからね、たいへなのよ」

 と言いながら、タンポポをガシッとつかみ、ぐぐっと引き抜く。雑草抜くだけでも大変な作業だろう。

 

 息子さん夫婦と住むが、シバザクラの手入れはもっぱら邦子さんの仕事のようだ。さてさて、そろそろ戻りましょうか、と歩き出した時は、もうついてきた杖を畑に忘れている。

 「あははは、こんなだものねぇ〜」と、明るい邦子さんなのだ。