北丿沢在住
「氷の写真を撮っている人がいる」と聞いて訪ねてみた。
北の沢にお住まいのアーティスト、Atsukoさん。ここに住んで21年になる。写真を撮り始めたのは、子供が生まれてから。子供達の写真を撮っていた時、蜘蛛の巣に付いていた雫を見つけた。
「キラキラして綺麗」そう思ってカメラを向けた。自分が心惹かれるものを一眼レフカメラやスマホなどで撮りSNSにあげていた。
2014年の秋、友達から「写真展をやったら?」と言われ「だったら一緒にやろう!」と誘った。
もちろん、写真展などやった事などない。どうしたらいいのかわからず、まずは写真展に行ってみようと思い立ち すぐに調べて、その時に開催中だった写真展に足を運んだ。
写真展には、その写真を撮った写真家本人がいた。さまざまなエピソードを聞き、その発想や、スケールの大きさ、熱量に圧倒された。自分の好きなこと、興味があることに没頭し実現していく力に感銘を受けた。
帰り際に、写真展を開きたいと思っている事、初めてで何から始めたらいいのかもわからない事を話した。写真家は 写真展を開催する為に必要な事をAtsukoさんと友達に一から教えてくれ、印刷会社まで紹介してくれた。その写真家のお陰で写真展は無事に開催する事ができた。
そして、「あなたは自分の撮りたいものがわかっている。これを試してみたら?」と、より小さいものが撮れる接写用のレンズを貸してくれた。
そこから、Atsukoさんは超マクロレンズでも写真を撮り始める。葉っぱに付いた朝露の写真。とても小さな水滴を草の上に腹這いになりながら撮った。超マクロレンズでしか見えない世界に魅了された。
冬になると雪の結晶も撮った。
ただ札幌は雪を撮るには暖かく、雪の結晶は解けたり欠けていて、きれいな形で撮るのは難しかった。
冬の寒い朝、窓に出来る霜の華。いつも同じ窓に出来る、毎回違う形。それを撮るのも冬の楽しみのひとつだった。
ある時、窓のリフォームの話が持ち上がる。Atsukoさんは、いつも霜を撮る窓だけをリフォームせずに残すか悩んだ。
ふと、霜が撮れなくなったとしても「私の視点があれば、大丈夫。また新しい何かを見つけるはず」と思えた。いつも霜を撮っていた窓もリフォームされ、霜がつく事はなくなった。
それから、少し経った頃、夢を見た。何かを凍らせる夢だった。
目が覚め「氷を作って撮ってみよう」と思った。
これはAtsukoさんの中での大きな変化だった。なぜなら、それまでAtsukoさんは自然にあるものを自然のままに撮るのがマイルールだったから。
トレーに水を入れて外で凍らせ、夢をヒントにしたやり方で撮ってみた。超マクロレンズで覗いた氷の中は、たくさんの気泡が見たことのない世界を創り出していた。
撮影しているそばから解け出して氷の表情が変わっていく。刻々と変わっていく世界にワクワクした。
肉眼では見えないほど小さいものを撮るので カメラがブレないように細心の注意を払う。リモコンでシャッターを押すだけでもブレる。ピントを合わせるのが大変だとAtsukoさんは言う。時間を忘れるほど没頭し、500枚くらい撮っても気に入るのは、1〜2枚だそうだ。
それでも撮り続けるのは、今日はどんな世界が広がっているのか見たい、知りたいと言う気持ちから。
「まるで氷の中に宇宙を見ているよう。探検している感覚」と話す。
2020年には初の個展『未知満ちる ミズノコスモス』を札幌市内で開催した。
「私にとって氷の中は『未知満ちる世界』。いろいろな角度で探究して、アートとしても多彩な表現をしていきたい」と笑顔で答えてくれた。