地域に愛され25年 「やきいも工藤」が閉店 2024.10.25&10.31 追記
川沿に店を構えて25年、地域に愛され続けてきた「やきいも工藤」が2024年10月末をもって閉店する。ショッキングなニュースを聞きつけ、すぐに「やきいも工藤」に向かった。お店の扉には、「25年間ありがとうございました」という店主からの貼り紙があり、その周りに数えきれないほどのメッセージカードが貼られていた。
「いつもおいしいやきいもをつくってくれてありがとう」
「学生の頃から大好きな味でした。おつかれさまでした!また会える日を楽しみにしています!」
「家族のような人達ばかり」
メッセージから「やきいも工藤」がどれほど多くの人にとって特別なお店だったのかが伝わってくる。
店内では、店主の工藤育男さんが店の片付けをしていた。閉店の理由を聞くと、二人三脚で店を切り盛りしてきた奥さんが急に病に倒れ、入院中だとのこと。奥さんが回復するまで一人で営業することも考えたが、奥さんあっての店だと思い、思い切って閉店を決めたと言う。
窓に貼られたメッセージについて尋ねると「閉店を告げる貼り紙を貼ったら、一つ、また一つとメッセージが増えて、こんなにいっぱいになって驚いた。これほど愛していただけていたんだなと本当に嬉しく思った。25年前はまだ生まれていないお子さんが、『25年間お疲れさまでした』とか書いてくれて、思わず笑っちゃったね。お店に来てくれたお客さんの顔が次々と浮かんでくるよ。」とメッセージに目を向ける。
1999年に川沿に開業した「やきいも工藤」。それまでは夫婦で野菜の移動販売を行っていた。催事で焼き芋を売り始めたところ、人気となり、川沿に焼き芋専門店をオープンすることにした。「販売していて、野菜を売った時のお客さんの顔と、焼き芋を売った時のお客さんの顔がどうも違うんだよなぁ。焼き芋を手にすると皆、笑顔になるんだよ」と工藤さん。住居は厚別区にあり、毎日川沿まで車で通っている。なぜ川沿を選んだのか聞くと「コープソシア店や藤野店の催事によく出かけていた。この地域の人に馴染んだというか、このあたりと相性が良いなぁと感じていたところ、今の場所が空きになっていて、開業を決めた。」と教えてくれた。
25年間の営業の中でも忘れられない思い出の一つ。それは、藻岩南小学校の3年生が作ってくれた「やきいも工藤」を紹介するポスターだ。「のこそう!藻岩南遺産」というタイトルで、子どもたちがインタビューをしに来てくれた。「これは私たち夫婦の宝物です」と工藤さんは語る。
気になる奥さんの容態だが、意識ははっきりとしているが、歩くのが困難な状況とのこと。現在、リハビリを頑張っているそうだ。「うちの奥さんはね、焼き芋のために生まれてきたんだと思うくらい、焼き芋を食べるのも売るのも大好きでねぇ。また回復したら、どんな形になるか分からないけど、一緒に焼き芋をやりたいね」と工藤さん。
その思いは、実は窓ガラスにも示されていた。
「閉店というよりリセット!」
「やきいも工藤」はしばらくの間、「リセット」という休憩期間に入る。25年もの間、川沿で沢山の人を笑顔にしてくれた工藤さん夫婦に心から感謝を込め、「やきいも工藤」の焼き芋がまた食べられる日を心待ちにしたい。
文・写真 御手洗志帆(アシスタント)2024.10.25
10月31日の最終日にもお店を訪ねる。やきいも工藤と書かれた看板は取り外されていた。ふと窓ガラスに工藤さんからお客さまへのメッセージが追加されていることに気付いた。
「毎日、々々 皆様からの温かい励ましのお言葉ありがとうございます やきいもと皆様との御縁、私達夫婦の宝物です 九月二十八日の昼頃、店内にてお母さんが脳出血にて倒れてしまい現在、入院闘病中です 又、皆さんにお会いしたいとの一念で退院に向け努力の毎日!皆さんにお会い出来る日を楽しみにしています」
「やきいも工藤はまだ終わらない『閉店ではなくリセット』それが私達夫婦の生きる道」「楽しくもあり苦しくもあり とても幸せな二十五年間に感謝」
お店を閉める理由をお客様にちゃんと伝えられていなかったからね、と工藤さん。もう一枚貼られたメッセージに自然と涙が出た。
「土地柄と人柄の良さに二十五年も。川沿は子育てと終の住処に最適」
工藤さんへ 川沿に「やきいも工藤」を出店してくださり、沢山の人を幸せにしてくださり、本当にありがとうございました。まずは奥様のご体調の回復を心よりお祈り申し上げます。そして、必ずまたお会い出来る日を楽しみにしています!
文・写真 御手洗志帆(塾長アシスタント)2024.10.31追記
川沿12条の石山通りを歩いていると、「甘〜い香りいっぱい 今日も幸せ気分」という看板が見えてくる。甘くて美味しそうな焼き芋の匂いも漂ってくる。「やきいも工藤」だ。
早速お店に入ると、工藤さん夫婦が迎えてくれた、美味しそうなやきいもの他にも入り口付近にはスゥイートポテトや大学芋、干し芋が置かれている。奥の壁には横一列に芋の品種が書かれた札が貼られていた。こんなにもサツマイモに種類があるとは驚いた。工藤さんのお話によると、1年以上様々な場所を探した結果、川沿の今の場所に辿り着き店を開いたそうだ。
その後、全国の農家さんなどに電話をかけさつまいもを調べ上げ、その中から激選されたものが店頭に並んでいる。夏は「べにはるか」と「里むすめ」の2種類のみ販売しているが、秋の9月ごろになったら豊富な品揃えになってくる。寒くなってきた時にホクホクのやきいもが食べられるのは幸せ気分になる。時期もそうだが、同じ品種でも取れる場所によって味や肉質、甘味などが変わるという。中でも紅あずまは日本中のどこでも収穫できるが同じ品種だとは思えないくらい違ってくるそうだ。
この取材は夏だったため「べにはるか」と「里むすめ」の2種類しか店頭になかったが、早速食べ比べてみた。「べにはるか」はトロッとしていてとても甘くお菓子を食べているみたいだった。一方「里むすめ」は、さっぱりしていて塩がとても合う。甘いのが苦手な人でも美味しく食べられる。私は皮が好きなのだがどちらもパリパリしていて最高だった。
そんなお店のこだわりは、地域の人ももちろんだが地域以外の人にも訪れてもらいリピートしてもらうことだ。来てもらい続けることで商売は成り立つ。テレビなどで紹介してもらうと来てくれるお客さんは増える。だが、もう一度買いに来てくれることは難しい。お客さんがもう一度来たいと感じてくれることを目標として自分達で模索しながらやっている。
お客さん自身が食べたいと思えるもの、自分たちが食べて欲しいと思えるものを作り、お客さん自身がほかの誰かに食べてもらいたいと思ってもらえるような商品を作りたい、このようなこだわりを持たなければ、真剣勝負でできない、という。
やきいもを買ったときのパッケージに「やきいも100年計画」と書かれている。それは、親から子供、子供から孫の三世代にわたって食べてもらう、つまり100年間食べてもらうことを意味している。例えば、親とあまり話せていない子供が、親の買ってきてくれた焼き芋で、話をするきっかけになるような商品を作りたい。これも一つのこだわりだ。
自分好みの焼き芋を見つけたり、日々の家族への感謝を伝えたり……
何度も訪れてみたくなるお店だ。
文・写真:林芽久(東海大学国際文化学部デザイン文化学科)
(2021/09/06)
札幌市南区川沿12条2丁目2-4
電話:011-572-2591
営業時間: 9:00~18:00
定休日:毎週火曜日
HP https://www.yakiimo-kudou.com
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